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動中在静

 ディズニーシーなどというところは縁がないかと思っていたのですが,ひょんなことから出かけることになり,ついでにとて,園内の蓋を採集してきたのですが,その中でミステリアス・アイランドの入口付近にひとつだけあった蓋のお話です(以下はほとんど各サイトからの丸写しです。それらがいつまでも閲覧できればいいのですが404になることも多いので,多くを引用させていただきました。かなりはしょったので意図が不正確に伝わる恐れがあり,可能なら元のサイトを参照していただきたいと思います)。
 ディズニーシーのミステリアス・アイランドはベルヌの「海底二万里」をモチーフにしており,ネモ船長の作ったその潜水艇(ノーチラス号ではない?)に乗るアトラクションがあるのですが,このアトラクション,ネモ船長役に江守徹が起用されているとのことでした(Wikipediaによる)。さすがTDR,こういうところで手抜きをしないのが,集客の秘訣でしょうか。
 またネモ船長の「ネモ」というのは偽名で,ラテン語の「Nemo」(誰でもないの意)だとか,ネットを検索していると,いろいろ興味深い記述にぶつかります。
 問題の蓋には,「MOBILIS IN MOBILI」と書かれています。あるサイトの記述によると「モビリス・イン・モビリとは、東京ディズニーシーのミステリアス・アイランドの挨拶。/左手を右肩のあたりに当て、モビリスと挨拶。/相手は、モビリと返答します」ですと。ちなみに,同じサイトの解説では,TDRでは従業員を「キャスト」と呼びますが,ミステリアス・アイランドだけは「クルー」というのだそうです。彼らに「モビリス」と呼びかけると「モビリ」と返事してくれるそうですが,ちょっと通になった気分が味わえるかも。

 さて,「MOBILIS IN MOBILI」をさらに検索してみたところ,「海底二万里」のノーチラス号の船内に掲げられているラテン語の銘句,という解説に行き当たりました。そこにはディズニーシーのメンテナンスホール(マンホール)のことにも触れられています。ここで指摘されているのは,
 「MOBILIS IN MOBILI」の意味は,(1)「海底二万里」の日本語訳では一般に「動中の動」と訳されている,(2)英語訳では「変化する環境における動き」といったニュアンス,(3)ディズニーランドのガイドブックには「変化を以って変化をもたらす」という訳が載っているらしい,など。
 要するに動=変化を是とするアメリカ流の発想ですね。
 ところが,このサイトの解説を読み進むと,

(以下引用) ヴェルヌは「海底二万里」第一部第一章のキュナード社に関する部分がフラシャの「大洋横断蒸気航海術」という本を元ネタとしており、その本の中に、ある技師※が「浪に打たれる岩」を象った紋章の銘として"Immobilis in mobile"(動中の不動)という言葉を採用していて、ラテン語の文法間違いも同じ。タリュー氏は全く別個にこの"Immobilis in mobile"に気付いていたものの、おやっと思っただけでそれ以上調べていなかったという。
 (※:タリュー氏によりこの技師が誰かも判明。セバスチャン・アンリ・デュピュイ・ド・ボルドSebastien Henry Dupuy de Bordes (1702-1776)というグルノーブルの数学教師とのこと。)
 さらにその後、ishibashiさんにより「動中の不動」の記述に続いて「さらに観察眼に優れたある技師は、波の動きに身を任せる小船を選び、『動中の動』を銘とした」という記述があることが判明。これは、波の中で波に抵抗せずに動けば船は壊れないという造船工学的な意味合いで使用しているようだ。
 すなわち、「動中の動」の発明者がヴェルヌでないことが判明したが、ヴェルヌはそれを造船工学を超えたさまざまな意味を含む銘句としたことになる。(引用終り。原文の文字装飾は省略)


 今の免震構造みたいな意味で「動中の動」という言葉が生まれたらしいことが分かりました。さらにこのサイトの著者は,太極拳の「静をもって動を制す」/「静中求動」という言葉やら,武蔵の『五輪書』やらを引用しつつ,この言葉にまつわる考察を深められています。全体を通して大変興味深く大変参考になったので,その多くを引用させていただきましたが,元のサイトで述べられているほんのわずかもうまく伝えられていないような気がするので,是非もとのサイトをご覧ください。

 ところで,田舎の今はもうなくなってしまった実家に「静在中動」と墨書された額がかかっていました。幼児だった私は,大人の人にあれは右から「動中在静」と書いてあるのだと教えられたような記憶があります。後に,右から書くというのは実は1字詰めの縦書きなのだ,という説を聞いて大いに納得したのですが,それはさておき,ディズニーの蓋から幼少時の記憶の霧の中に沈んでいた言葉が想起されたのは大変興味深いことでした。「静」は「不動」とは違ったニュアンスではあるのですが,「転がる石に苔生さず」ということわざが,英米で正反対の意味を持つことなども思い出され,かつては「変化/動」に重きを置いていた自分自身が,今ではすっかり反対の価値観を持っていることに背中がこそばい思いをしていたりもする次第です。
 もっとも,「動中在静」は「静中在動」と対句になっているらしいので,静寂ばかりがいわれているわけではないのですが,「動中の動」の申し子みたいな遊園地では,逆にこの言葉を肝に銘じて行動するといいことがあるかもしれません。